会社が従業員にお金を貸して給料から天引きをすることは許されるのか
給料の前借りは、どんな企業でも起こる事象です。
「今月ピンチなので、お給料前借りできませんかねぇ」というときは、たいがい、給料の「前払い」です。
だから、利子もつかないのですね。
「前借り」というのは、その名の通り、会社が従業員にお金を貸し、それを従業員が借りることです。
不特定多数の人にお金を貸すのは、「業として」お金を貸すと判断されますから、この従業員への貸付けも、本来であれば貸金業でなければできない範囲に入ってきます。
ただ、実は貸金業法で、例外が定められており、従業員貸付けに限っては、貸金業登録をしなくても、お金を貸してよいことになっています。
それで、貸したお金をどこから回収するかといえば、ふつうはお給料からになりますが、労働基準法で、賃金との相殺は禁止されているのです。これを「賃金全額払いの原則」といいます。
それで争点となるのは、「従業員と相殺の約束をしていても相殺はダメなんですか」ということです。
本来であれば、合意相殺と呼ばれるこの相殺は、許されるはずです。
ただ、労働基準法の「賃金全額払いのルール」は、労働者の賃金を守ることにあるので、この「約束」が有効課については、厳しく判断されます。
最高裁の判例では「労働者の相殺の同意が労働者の自由意思に基づいてなされたもの」でなければ、相殺合意はないものとして扱われるのです。
この自由意思の判断は、かなりハードルが高いです。
住宅ローンに関する裁判例だと、自発的に依頼するだけではなく、会社が利子の一部を肩代わりするなど、労働者がその判断をすることが有利と思われる事情がないといけないように読めます。
そのため、この相殺は、実際は難しいとは言われています。
まあ、会社としたら、振り込んだタイミングはわかるので、それからすぐ払ってもらうよういえばいいんですね。それで払ってもらえないような人にはお金を貸さないようにするのがリスク管理としては大切なのだろうと思います。
最近、ウェブの記事を記載していて、その補足として、こちらに、少し関連する内容をアップしました。
弁護士 杉浦智彦