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判例解説_最判平成30年7月19日_定額残業手当の有効性(肯定)

July 26, 2018

 

本判決を踏まえてのまとめ

・定額残業手当を支払うときは、何時間の残業に対応するか明記しよう

・定額残業手当の残業時間と実際の残業時間は、ある程度近い時間にしておこう

・定額残業手当を採用していても、きちんと労務管理をしておこう

 

【事実関係】

薬剤師の残業代請求事件である。

一ヶ月当たりの平均所定労働時間は157.3時間であり、残業時間は、次のとおりであった。

  • 30時間以上が3回

  • 20時間代が10回

  • 20時間未満が2回

 

<従業員に渡していた雇用契約書の賃金の定め>

賃金月額 562,500円(残業手当含む)

 

<この従業員の採用条件確認書の記載事項>

  • 「月額給与461,500」

  • 「業務手当 101,000 みなし時間外手当」

  • 「時間外勤務手当の取り扱い年収に見込み残業代を含む」

  • 「時間外手当は、みなし残業時間を超えた場合はこの限りではない」

 

<賃金規程>

「業務手当は、一賃金支払い期において時間外労働があったものとみなして、時間手当の代わりとして支給する。」との記載があった。

 

<給与明細書表示>

  • 月額給与461,500 業務手当101,000円

  • 時間外労働時間や時給単価を記載する欄があったが、ほぼ全ての月において空欄

 

<上告人・被上告人以外の各従業員との間で作成された確認書>

  • 業務手当月額として確定金額の記載があった

  • 「業務手当は、固定時間外労働賃金(時間外労働30時間分)として毎月支給します。一賃金計算期間における時間外労働がその時間に満たない場合であっても全額支給します。」との記載があった

 

<労働時間管理方法>

  • タイムカード利用

  • ただし、出勤時刻と退勤時刻のみ打刻。

  • 休憩時間に30分間業務に従事していたことがあったが、管理されていなかった

 

 

原審の判断:一部認容

いわゆる定額残業代の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことができるのは,定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっており,これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されているほか,基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり,その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる。

→業務手当の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことはできないから、これとは別に残業代を払わなければならない。

 

最高裁の判断:破棄差戻し

<基準>

雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは,雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである。しかし,労働基準法37条や他の労働関係法令が,当該手当の支払によって割増賃金の全部又は一部を支払ったものといえるために,原審が判示するような事情が認められることを必須のものとしているとは解されない。

 

<基準のもと判断している事実>

  • 本件雇用契約に係る契約書及び採用条件確認書並びに上告人の賃金規程において,月々支払われる所定賃金のうち業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨が記載されていた

  • 上告人と被上告人以外の各従業員との間で作成された確認書にも,業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨が記載されていた

→①賃金体系においては,業務手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものと位置付けられていたと認定した。

 

  • 被上告人に支払われた業務手当は,1か月当たりの平均所定労働時間(157.3時間)を基に算定すると,約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当するもの

→②実際の時間外労働等の状況と大きくかい離するものではないと認定した。

 

以上①②から、被上告人に支払われた業務手当は,本件雇用契約において,時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていたと認められると判断した。

 

【解説】

1.定額手当制をとった固定残業代の争点について

 固定残業代の内容として、具体的には、基本給とは別に支払われる定額手当の支給(定額手当制)と、月に支払われる賃金の中に、割増賃金の支払い方法として、通常賃金に対応する賃金と割増賃金を併せたものを含めて支払う方式の基本給組込みの支給(定額給制)がある。

 裁判例でよく問題となっていた「割増部分との区別ができるか」という明確区分性は、定額給制では争点となるが、そもそも分離している定額手当は、別の争われ方がなされていた。

 

これまで、①手当の名称や支給条件から、割増賃金支払いの性質を有するか問題視する裁判例、②固定残業代で支払われなかった部分の清算合意や清算実態がない場合に有効性を否定する裁判例、③固定残業代の金額に対応する労働時間の多さを問題視し、その効力を否定する裁判例がみられた(佐々木宗啓ほか編『類型別労働事件訴訟の実務』(青林書院、2017)129頁〔佐々木宗啓〕)。

本件は、清算実態がないという争われ方という点で、基本的には②の事件に分類されるものである。

 

2.先例:アクティリンク事件(東京地判H24.3.8労判1058-5)

「このような他の手当を名目としたいわゆる定額残業代の支払が許されるためには,①実質的に見て,当該手当が時間外労働の対価としての性格を有していること(条件①)は勿論,②支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示され,定額残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途清算する旨の合意が存在するか,少なくともそうした取扱いが確立していること(条件②)が必要不可欠であるというべきである。」

 

3.先例に対する批判的見解

(佐々木・前掲133頁以下・128頁以下、白石哲「固定残業代と割増賃金請求」労働関係訴訟の実務117頁)

「「清算合意があること」ないし「清算の実態があること」の要件については、議論があるところであるが、支給が合意された固定残業代の額を超えて時間外労働が行われた場合に、その超過分について割増賃金が別途支払われるべきことは、労基法上当然のことであり、「清算合意」ないし「清算の実態」を独立した要件と解する必要はないと解すべきであろう」

 

「「支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならない」とする見解が最高裁判決の補足意見として示されている。そこで、このような明示がなされていることが定額給制の固定残業代の合意の有効要件となるか問題となる。割増賃金の支払義務によって残業を抑制しようとする労基法37条の趣旨からすれば、同条の割増賃金が支払われているか検証できる程度に労働条件が明示されていることは必要とはいえるが、支給時ごとに支給対象となる時間外労働の時間数及び残業手当の額を明示することを要求する必要はなく、これを有効要件とする理由はないと考えられる。」

 

4.原審の判断について

 原審は、これまでの裁判例の判断に沿って、以下の必要性から、基準を立てた。

・残業把握の取り扱いが確立している必要がある

→定額残業の対応時間の説明と、時間を把握する仕組みを要求

・長過ぎる定額残業時間は労働者の健康を害する

 →固定残業代とのバランスを要求

 

 本件は、バランスは問題がないが、対応時間の説明等がないことから、「みなし」としての固定残業手当性を否定した。

 

5.最高裁の判断のポイント

まず、最高裁は、残業代について、概要、以下のルールを述べている。

・時間外労働に対しては、その抑制及び労働者への保障のため割増賃金を払わないといけない

・割増賃金のルールは、「下回らない金額で割増賃金を払え」というものだけ。その他のルールは設定していない。

 

そのため、そのほかの時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されているかなどの要件は要求しなかった。

 

その一方で、今回の最高裁の判断では、「残業代の支払いとみなす合意が存在するか」という判断ではなく、「会社が、その手当を残業代として支払っているか。」というシンプルな弁済の問題を判断している。

 

最高裁は①契約書だけでなく、ほかの従業員を含めてどのような賃金の支払いをしているかということも含めて、会社側の支払い時の意思の認定をしつつ、②従業員の実際の残業時間を踏まえて、客観的に、それに対応する金額を渡しているから、残業代としての支払いの実態があるという解釈をしているものと考えられる。

 

 

【本判決を踏まえた今後の対応】

本判決は、固定残業手当の有効性について、従来の地方裁判所などで判断されていたよりも、広く捉えられることになった。

しかしながら、結局、雇用契約書の内容などで、手当に対応する残業代の時間を明確しておかなければ危ないといえるし、さらに、実際の時間外労働時間も考慮要素となっていることから、結局は、実際の労務管理も、定額残業手当の有効性に影響するものといえる。

そのため、手当の内容を明確にしておくことや労務管理の徹底が、リスク管理の上で重要であるといえる。

以上

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