メルカリのようなエスクロー決済を導入するための対応
1 エスクロー決済とは
エスクロー(Escrow)は、「預託」という意味です。
エスクロー決済というのは、商取引の際に信頼の置ける第三者を仲介させて取引の安全を担保する制度です。
メルカリを使ったことがある人ならばわかると思いますが、メルカリは、こんな流れの決済手法です
・買主がお金を払って、メルカリが預かる。
・売主が商品を発送する
・それが確認できたときにメルカリが売主にお金(メルカリの場合は、厳密にはお金ではないのですが・・・)を渡す
これだと、売主が変なものを売りつけて逃げることも避けられますし、買主がお金を払わず逃げるということも避けることができます。
これが、まさにエスクロー決済です。
2 法規制がある理由
しかしながら、このエスクロー決済は、原則としては、資金決済法上の「資金移動業」としての登録が必要とされています。
その理由は、「その間の人が信頼できる人でないと、取引が円滑に動かず、困るから」です。
メルカリくらい大きくなったら、さすがに逃げることは考えにくいですが、
そうでないところだとどうでしょうか。
勝手に、お金を持ち逃げし、売主はお金を回収できないなんていうことが起こったら大変でしょう。それだけではなく、支払いが遅れるだけでも、企業にとっては影響が大きいです。
銀行と同様の信頼が必要で、だからこそ、法規制が要求されているのです。
資金移動業になると、「履行保証金」というお金を国に預けないといけなくなります。
その他、さまざまな規制があります。
https://www.s-kessai.jp/businesses/funds_transfer_overview.html
3 しかし、資金決済法を回避する方法がある?
しかしながら、メルカリは最近まで資金移動業の登録をしていませんでした。それはなぜでしょうか。
その理由は、「収納(送金)代行サービスだから、資金移動業ではない」という言い分のようです。
資金移動業は、「銀行等以外の者が為替取引(少額の取引として政令で定めるものに限る。)を業として営むことをいう。」と定義されています。
「少額の取引」というのは100万円というのを指します。
収納代行サービスは、「為替取引」ではないという主張ですね。
「為替取引」は「顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行すること」と定義されています。
収納代行サービスは、どこが違うかというと
代行業者は、「売主の代わりにお金を受け取る」ことで、売買契約での支払い義務を終了させているというという点で、「資金を移動してるのではなく、売主の代わりにお金を受け取っているんだ」ということを言っているわけです。
為替取引だと、業者が逃げたとき、支払い義務は完結していないので、買主はさらに売主に支払わなければならない義務があります。
しかし、代行業者であれば、買主は、支払い義務を完了させているので、二重払をしなくてもよいのです。
※その他の収納代行を為替取引でないとする言い分は、金融庁「資金決済に関する制度整備について―イノベーションの促進と利用者保護―」をご覧ください。
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20090114-1/01.pdf
そうはいっても、上記報告書でも、為替取引に該当するという意見もあるので、それなりにはグレーです。
一回あたりの決済額を低くしたり、利用規約に明記したりすることで、仮に違法でも一発目に摘発されることを避けるための配慮を、どのベンチャーもしているというのが現状のようではあります。
弁護士 杉浦智彦